時々空中へ舞ひ上がつてゐる。

好きなものについて考え続け脳内迷子のパラノイア雑記

『深夜の人』室生犀星

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『深夜の人』室生犀星.昭和9年1月の作。.「雨があがると虹が立った、素晴しい美しい虹だった。」..なぜか群衆が虹を見ようと列をなして歩いている。それを見た「死んだ小説家が僕とならんで、ちょっと虹の方を見て、愚かなることよというような顔をした」。.ほどなくして空からとても大きく立派な、しかし紙細工の龍が下界に降りてきた。「見たまえ龍の胴ッ腹から人間の足が一杯下っているじゃないか」と死んだ小説家は言うが、僕も群衆も讃仰の心で龍についてゆく。.やがて龍は消え、次に空から悲しい音楽が聴こえてくる。実はそれは死の行進曲だったのだが、行列はそのまま死人の行列となり歩みを止めない。.「死んだ小説家はそんなものに耳もくれないで、こんどは碌な行列じゃないぜ、きゅうきゅう絃をこすりやがっていやに悲劇の前ぶれをするから面白い筈がないと云った。それにも拘らず彼はのんきな顔をして、しげしげと天の一方をながめ込んでいた。」.いつしかその音も消えたが、行列は続く。「死んだ小説家は小鳥が籠から放れると、ふいに高い木の頂に止ってやはり一応籠の方をふりかえって見るように、熱心に行列を見ていた」。.「君は死んでいるのか生きているのか、どっちなんだと言おうとして、それを言うことが大変なことになると思うて僕はいうのを控えた。」.群衆は皆、この恐ろしい行列に加わろうとするものを止めようとするが、実際に行列が近づくと「踊るような足つきで行列のなかに紛れ込んで」ゆく。.「この行列は多分きょう一杯つづくだけのものがあるよ、あとはまだ雲の中を歩いているから」。と彼が言う。「彼はぐずぐずしていて歩き出そうとしなかった。それに行列のなかに知り合いでも捜し当てるように、ちらりちらりと鰊のように固くなった顔を見くらべては、飽きる様子もなかった。」.列に加わるものが増えるばかりで、数えることもできなくなった僕が道路に飛び出すような気になったその時。「死んだ小説家がその時僕に何んでもないように、平気で云った。」.「では君、失敬。」.「かれはそういうと、なりの高い背丈を群衆から放して、列の中にまぎれ込んで行った。あんまり突然な出来事だったような気がして、僕は呆気に取られて眺めていた。彼もまたお多分に漏れず行列に加わると同時に何が何やら、そしてまた誰が誰やらわからぬようになって了った。」...とても龍さんらしく、飄然として。.#読書 #読書記録#books #bookstagram#室生犀星#芥川龍之介