時々空中へ舞ひ上がつてゐる。

好きなものについて考え続け脳内迷子のパラノイア雑記

『虹の天象儀』瀬名秀明

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『虹の天象儀』瀬名秀明.珍しく現代作家。SFです。SFというよりファンタジーかしら。天象儀とはプラネタリウムのことで。プラネタリウムの投影機がキィになって動いていく話。.昭和、戦中戦後の描写があると読みながら必ずベタなセピア色のふわっとした空気感を感じる我ですが、この作品は違いました。流れるような透明感あふれる色。水の中から見上げる空のような。.瀬名さんの科学技術に対する愛を感じる。2001年、五島プラネタリウムの閉館から話が始まる。主人公はそこの技師兼解説員。行ってみたかったなぁと思ったり。天文関連の知識はほぼないけれど。プラネタリウムにわくわくする方はぜひご一読を。..さて。この本を読んだのは、超主要登場人物に織田作がいたから。ええ。織田作。織田作はプラネタリウムが好きだった。『わが町』という作品にも登場する。プラネタリウムに映る南十字星がとても印象的で。わが町についてはまた今度。.「大阪電気科学館」の日本初プラネタリウムに織田作は足を運んでいる。その感動を『星の劇場』という随筆にも記している。戦地の友人から「歩哨に立って大陸の夜空を仰いでいるとゆくりなくも四ッ橋のプラネタリュウムを想いだした……」という便りが届き、初めて見に行き、「感激した。陶酔した。実に良かった、という外よりはない」と。星の世界一周。.戦地の友人。そのような境遇のひとがそこら中にいた時代。『わが町』の「他アヤン」のように、現地で日本とは違う星空を見上げていたひとたち。..「私」はプラネタリウムを見に来た少年に、もし時を動けるのならば誰に会いたいかと問われ、織田作之助を思った。織田作は東京で有楽町のプラネタリウムを見たのだろうか、と。昭和18年、昭和21年と時を超える精神。そこにいるひとの身体を借りて織田作に会いに行く。時を案内する少年と二人、病室に入ると「……誰や、きみらは」。 ←もう我ここで号泣(あほですか).織田作が、会ったこともない少年達に向かって、なんとか声を出そうと懸命に胸を上下させ声を押し出し、苦しそうなのに軽快な大阪弁で話し続け。星空を見せに来たという少年に語り始める織田作の「忘れられへん夜空」。夜の空に架かる虹の橋「月光の虹」、ムーンボウ。そして、月光の虹を見せる少年。..織田作が臨終の際に残した言葉「思いが残る」。この言葉が作品の全体を包んでいて。.「誰でも生涯忘れられない夜空があるのかもしれない。そのときに見た星々の輝きに、思いが残ってゆくのかもしれない。」.また、借りた身体から去った後もそのひとに残る思い。生きてゆく私たち、残像となり身体に染み込んでゆく思い。少年が織田作に投影機を見せた理由。「彼の思いもどこかで残ったんだな?」君は誰だ?..冒頭で引用された織田作の昭和13年に書かれた日記の一節。ーーーーーー午前四時忘れていた 忘れていた、やがて死ぬ身であることを、飯をくらいお茶をのみ馬鹿話しして、けちくさい恋も照れてやり、小説本を読みながら、死ぬことを忘れていた、やがて死ぬことを、ーーーーーー.「だが、思いは残るのだ。. 誰かの中に、思いは残る。」..#読書 #読書記録#books #bookstagram#瀬名秀明#織田作之助