時々空中へ舞ひ上がつてゐる。

好きなものについて考え続け脳内迷子のパラノイア雑記

『文鳥』夏目漱石

そういえば。自分が持っている本であっても、青空さんで読めるものはこちらで紹介したりしています。皆様が手軽に気軽に手に取れる手段として。ぜひ。

https://www.instagram.com/p/ByD97lQFcvX/

『文鳥』夏目漱石.さて。漱石先生の『文鳥』を先に。明治41年6月の作。三重吉兄さんにごり押しされて飼うことになった真白な文鳥の話。.「お飼いなさい」と言い出した三重吉に全部段取りしてくれと金を渡したものの、しばらく文鳥についての音沙汰がなく。こんな暖かい季節だから「縁側へ鳥籠を据えてやったら、文鳥も定めし鳴き善かろう」ものを と独りごちる漱石先生。.「三重吉の小説によると、文鳥は千代千代と鳴くそうである。その鳴き声がだいぶん気に入ったと見えて、三重吉は千代千代を何度となく使っている。あるいは千代と云う女に惚れていた事があるのかも知れない。しかし当人はいっこうそんな事を云わない。自分も聞いてみない。ただ縁側に日が善く当る。そうして文鳥が鳴かない。」.そのうち寒くなり、「文鳥はついに忘れた」漱石先生。書斎の火鉢に炭を継ぎ継ぎ過ごしているところに「三重吉が門口から威勢よく這入って来た」。三重吉兄さん、小宮豊隆を従えて満を持しての登場である。大得意である。三重吉は籠と大きな箱を持ち、豊隆は別の籠を一つ持たされていて。.「まあ御覧なさい」「豊隆その洋灯をもっとこっちへ出せ」。あれこれ場を仕切る三重吉に「豊隆はいい迷惑である」。同情する先生である。三重吉は立派な籠を作らせていた。「台が漆で塗ってある。竹は細く削った上に、色が染けてある。それで三円だと云う」。で、その籠を「安いなあ豊隆と云っている。豊隆はうん安いと云っている。自分は安いか高いか判然と判らない」。.そして三重吉は、寒くなればこの箱に入れてやれだの粗末な方の籠に時々入れて行水させろだの糞をするから籠を時々掃除しろだのあれこれ指図し。それをはいはいと聞いてたら、次に三重吉は袂から粟を一袋出して、餌のやり方、替え方を説明し、「水も毎朝かえておやんなさい」と言われる先生。「そこで自分もよろしいと万事受合った。ところへ豊隆が袂から餌壺と水入を出して行儀よく自分の前に並べた」。..順調に飼い始めた漱石先生。千代千代と鳴くようになった「淡雪の精のような」文鳥が自分のことを見た時、ふとある女性のことを思い出す。「昔し美しい女を知っていた。この女が机に凭れて何か考えているところを、後から、そっと行って、紫の帯上げの房になった先を、長く垂らして、頸筋の細いあたりを、上から撫で廻したら、女はものう気に後を向いた」。この女性は縁談が決まり、「今嫁に行った」。.漱石は真白の文鳥をその女性と重ね合わせる。「口から出る煙の行方を見つめていた。するとこの煙の中に、首をすくめた、眼を細くした、しかも心持眉を寄せた昔の女の顔がちょっと見えた。」.「そうして時々は首を伸して籠の外を下の方から覗いている。その様子がなかなか無邪気である。昔紫の帯上げでいたずらをした女は襟の長い、背のすらりとした、ちょっと首を曲げて人を見る癖があった。」.「いくら当人が承知だって、そんな所へ嫁にやるのは行末よくあるまい、まだ子供だからどこへでも行けと云われる所へ行く気になるんだろう。いったん行けばむやみに出られるものじゃない。世の中には満足しながら不幸に陥って行く者がたくさんある。」..やがて家人に世話を任せるようになり、自身ではたまにしか面倒を見なくなった漱石。夜、箱の中に入れてやるのを忘れたり、外出の際もあまり気に留めずいた。ある日帰宅した漱石は「籠の底に反っ繰り返って」いる文鳥を見つける。.「午後三重吉から返事が来た。文鳥は可愛想な事を致しましたとあるばかりで家人が悪いとも残酷だともいっこう書いてなかった。」..この作品を読んで書いた三重吉の『文鳥』については次回。..#読書 #読書記録#books #bookstagram#夏目漱石#鈴木三重吉#小宮豊隆#青空文庫しかし豊隆の言動が絶妙すぎて最高。子分感溢れるその立ち位置に憧れる我。